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現代インドネシア 1001景
「ミシンを積んだ自転車がやってくる」(2005.8.22)

「プルマッ、プルマッ・・・・。ジャヒッ、ジャヒッ!」横にミシンを載せた自転車が、お昼前の住宅街を流して走る。自転車を漕いでいるまだ若い男性の叫び声は実によく通る。かれは巡回しながら縫い物のサービスを提供するトゥカンジャヒックリリン(tukang jahit keliling)。

かれの名はブディ、28歳。東ジャカルタ市ドゥレンサウィッ地区を中心に、毎日10キロほどを自転車を漕いで走る。呼び止められて、女中や主婦あるいはその家のお嬢さんからもらう注文は、ボタンつけ、ファスナー取替え、ほころびの修理からズポンやスカートの裾を詰めたり、さらにはサイズを小さくする寸法直しまでさまざま。かれは服の仕立てができる腕を持っているが、巡回縫い物職人にそれを注文する人はいない。

貧困カンプンから中流住宅街まで、巡回縫い物職人の需要は無くならない。それらの住宅エリアに近いパサルにも店を構えている縫い物屋はあるものの、取れそうなボタンを直したり、ほころびを繕うためにわざわざ縫い物屋に出向くのも億劫だ、という人も少なくないし、縫い物屋の中には、受けた仕立ての注文で忙しければ、たいした金額にならない仕事は「またこんど来てね。」と門前払いするところもある。だから巡回縫い物職人は重宝される。

店を構えていないから仕事はいいかげんだろう、と思ってはいけない。「いいかげんな仕事をして、見栄えの悪い仕上げだと、二度と声をかけてもらえない。仕事は一生懸命やるよ。」とブディは言う。かれのような巡回縫い物職人は、ジャカルタにいったいどのくらいいるのだろうか?「2001年からこの稼業に入ったが、さあ、同業者がどのくらいいるかはよくわからないね。でもオレの知っているのはたいていジャワ人かスンダ人だ。」そうかれは語る。

ブカシのチビトン地区にある自動車関連工場で合理化の波をかぶったヘンドラ23歳も、2002年にこの道に入った。西ジャワ州クニガン出身のかれは、同郷者が巡回縫い物職人をやっているのを見習って、みようみまねでそれを始めた。かれ自身、父親がクニガンで縫製事業を行っていた時期があり、一通りのことは学んだ経験がある。そしてこの事業を始めるのに巨額の資金はいらないことが、かれの選択の鍵でもあった。中古の自転車一台、中古の足踏み式ミシン一台、そしてミシン付き自転車に改造する費用。中古自転車とミシンはジャティヌガラで手に入れた。それを持って溶接職人のところへ行く。どのようなデザインにするのか相談しながら改造してもらう。自転車の左側にもうひとつ車輪を付けてミシンとミシンテーブルを支え、自転車のサドルの横に後ろ向きにもうひとつサドルを置き、ミシンを使うときはそちらに座る。このヘンドラの商売道具は、自転車・ミシン・改造追加部品・改造費用すべて込みで総コスト60万ルピアでできあがった。言うまでもなく、鋳物の中古ミシンは重い。それが自転車の左側に取り付けられているのだから、自転車を漕ぐときのバランスなど慣れるまでたいへんだ。「はじめた当初は、何回溝に転がり落ちたかわからない。」そうヘンドラは回想する。かれは午前9時から夕方5時まで仕事をする。一日の収入は最大で10万ルピア。仕事の内容によって料金は異なり、手がかかる仕事ほど高い。ちょっとしたことのために縫い物屋へ出かけるのはたいへん、というカンプンや住宅地の主婦たちに、巡回縫い物職人はいたって重宝されている。

「プルマッ、プルマッ・・・・。ジャヒッ、ジャヒッ!」のどかな午後のひととき、巡回物売りたちがたてる鳴り物の響きの合間に、かれらの声が通る。

「これぞ究極の借金抵当」(2005.8.15)

全国的なPILKADA(地方首長選挙)の余韻いまださめやらないインドネシア。中部ジャワ州クブメンの県令と副県令が1億ルピアの融資を地方開発銀行クブメン支店に申し込んだ。金の使途は県下5軒の国立小学校校舎改築費用。すでに壊れてぼろぼろの校舎をなんとかしなければならない、と行政側が率先して着手をはじめたのだ。銀行から借金したのは、今年度予算にそれが計上されていないから。
地方首長といえども、銀行から借金するのに命令一下というわけにはいかない。そこできわめて珍妙なものが抵当に入れられた。銀行側がその抵当として呑んだのは、正副県令に対する内務大臣からの任命書。いくら公文書とはいえ、二枚の紙が1億ルピアの保証とされたが、そんな文書が経済価値を持っているとも思えない。
県民福祉のために身を粉にして働く女性県令をかしらにいただくクブメン県のひとびとのぬくもりだろうか。

 

「電話相談ビジネスは過酷な稼業」(2005.8.8)

2000年ごろから、プレミアムコールという名前での電話相談ビジネスが盛んになった。これは1分3千3百ルピアという高い電話料金を使わせて電話会社からキックバックを得る商売だが、当然ながら客に電話をかけさせて長時間切らせないようにしなければならない。そのために何をすれば良いのかは言わずもがなで、多くの真面目な電話相談所がある中に混じって、言うまでもなくその手の事業家が出てくるのは時間の問題だった。

あるとき、運通省逓信総局は札付きのオペレータPT Graha Raya Sentosa, PT Global Network Service, PT Mobic Indonesiaの三社に対してSパルマン通りにあるそれらの事務所を捜査した。グラハ・セントサを訪れた逓信局員に同行取材した記者たちは、電話線の向こうにいる相手に甘え声で一生懸命話しかけている電話相談係の後ろに立った。「ねえ、あなた…」このうら若い女性は、ふと後ろに並んで聞き耳を立てている記者たちに気付いておどろき、受話器を抱え込んで机の上に突っ伏せるとひそひそ声で会話を続けた。その向かいの仕切の中にいたリディアはどぎまぎして仕事が手につかない。

「わたし、この仕事まだ6ヶ月なのよ。」とかの女は記者の質問に応じてくれる。報酬は基本給45万、食費交通費15万4千、残業代3万ルピア。それをもらうために月5千分のターゲットを消化しなければならない。グローバルネットワークで同じようなことをしているヤンティも基本給30万で残業代3万。机の前に貼られている檄は「1会話−最低30分。必達!くびになりたくなければ!!」。モビックの電話相談係ウィンダによればそこの条件はもっと過酷。基本給などなく、一日一万ルピアもらえるだけだが、条件は1会話を200分引きとめなければいけない。一日1000分(17時間超!)が到達できればボーナスが出るが、なんと清涼飲料水一缶。さらに1日5000分(かけもちということ?)を達成すればボーナスがもらえるが、なんとそれはアイスクリーム。このビジネス、その手の新聞に毎日それらしい広告を出すと、営業成績は良好とのこと。広告をやめると電話はどんどん減って行くそうだ。電話に束の間の慰安を求めるかの女たちのお客さんは、どうやら刹那的情報だけを頼りにしているらしい。

「信用!?」(2005.8.1)

「23日に主人が探してくれた女中さんがうちに来たんですよ。すごく礼儀正しいのでもうすっかり信用してしまって。」 
「いや、おれは、『女中の勤め先を探している人がいると知り合いが言ってた。』と会社の部下のアミンが言うのでそれをよこしてもらっただけなんだけど。」 

「ええ、まあともかく、その東ジャワ出身のスミアルティさんって人が来て、24日は何をたのんでも気持ちよくやってくれたもんで、気に入らないこともなにもなかったし、これは良い人にめぐり合ったと思ってたんですよ。2歳の子供にもとても優しくしてくれて。それですっかり信用したもんだから、夕方に子供の守りを頼んで主人と美容院に行ったんです。ええ、ほんのちょっとの間だったし。それで夕方6時半ごろ家へもどったら、子供が近所の人にだっこされてるじゃありませんか。」 

「ユリさんちの子供がすごく泣いてていつまでも泣き止まないもんだから、どうしたのかと見に行ったら、家は開いてて大人は誰もいないんです。それで中へ入って泣いてる子を探したら、なんと部屋の外から鍵をかけて閉じ込められてたんですよ。可哀想だから『おばちゃんとこへ行こう。』と言って、こうやって家であやしてたんですわ。ユリさん、一体どうなってんの?」 

「そう、そうなのよ。わたしもびっくりしてウミさんを探したけど、家の中にはだれもいないのよ。え?ウミさんってスミアルティさんのこと。それよりもっとびっくりしたのは、戸棚や寝室の中がひっくりかえされてばらばらになってたこと。『やられたっ』と思って腰が抜けました。なくなったものを調べたら、携帯電話と貴金属宝石装身具を入れてあった箱、それから子供の貯金箱。子供の貯金箱には米ドルを貯めてたんですよ。正確にいくら入ってたのかわかんないけど、被害の総額は多分4千万ルピア以上でしょうよ。」
 
南ジャカルタ市パンチョランにあるカリバタインダ住宅地区に住むユリ・マルワティ39歳の被害届に関してパンチョラン署のサエナン・ロビス犯罪捜査課長は『わずか一日でこうまで騙されるか?』との感想は腹の中にしまったまま、「いま紹介ルートから容疑者を洗っている。早く捕まれば良いですが。」と述べている。


2005年7月記事

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