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ジャカルタドライバー考

第5回 (2005.12.13)

街中でもそうだが、郊外に向かう有料自動車専用道路でも、運転者ひとりひとりの快適速度が異なるために追い越しが必ず起こる。速度制限に従おうという運転者はいない。ドライバーはそれぞれ、自分固有の快適運転速度で走り続けたいものだ。ところが自分の前方を走っている遅い車の尻に追いつき、それを追い越すことが困難な道路状況に遭遇すると、かれはフラストレーションにとらわれる。自分の前にいる遅い車は、左側車線をそれよりもっと遅い車が走っているために、自分が快適スピードで走れる追い越し車線を走っているのだ。その結果最終的に、路肩が追い越し車線として使われ、あとからあとからみんなが猛スピードで路肩を大行進。低速車線にいるバスやトラックを右に見てのごぼう抜きだ。このようにひとりひとりが自分の快適スピードを追求するがために、車の前に空間が空いていれば右からも左からも他の車両が進入してくる。大型バスであれ、ダンプトラックであれ、コンクリートミキサー車であれ、大型車だから遠慮するということはない。みんな平等、何を運転しているかなどお構いなしだ。

街中の一般道でもそれは変わらない。走っている自分の車の前に車間距離が空いていれば、まず間違いなく右から左から他の車が進入してくる。混雑する都内を快適運転速度で走れるチャンスは稀であり、スピードが出ているわけではないのに、自分の前に進入してきた車のおかげでブレーキを踏むことを強いられる。走りの快適レベルがこうして低下の一途をたどることになるため、他車の割り込みを避けようという姿勢がジャカルタ・ドライバーたちに生じることになる。前の車との車間距離は最低限に切り詰め、左右からの進入の気配を感じたらスピードをあげ、前の車に近寄りすぎればブレーキを踏むという、急アクセル急ブレーキの繰り返しを行って自分の前にある路上のスペースを確保しようとするのである。

走行中の他車の前に空いているスペースに割って入るその行為は道路を快適に走行するという市民に与えられた権利を邪魔するものであり、つまりは他者の権利を奪い、盗んでいる、というようにわたしには思える。インドネシア語でその行為はスロボッと呼ばれ、日本語になおせばつまり『割り込み』なのだが、待ち行列の順番を侵すことも、他人の土地に入り込んでそこを占拠することも同じ言葉で表現される。路上は公共のものであるのに、公共物を平等に利用するという市民に与えられた権利が強い者によって奪われ盗まれているという実態は、自分が住む共同体の外はジャングルなのだというインドネシア社会の本質を裏書してくれているような気がわたしにはする。

  (文・西祥郎)

ジャカルタドライバー考は西祥郎さん提供です。
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