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ジャカルタドライバー考

第7回 (2005.12.27)

弱者保護原理にもっともあぐらをかいているのがオートバイであるようだ。走っている四輪車を右から左から追い抜いて車の前に出る者。後ろから四輪車が迫ってきているのに、威風堂々、周囲の状況などには何の関心も払わないで右側車線のど真ん中を走り続ける者。そんなツラション二輪車に「道を空けろ」と意思表示する四輪ドライバーは意外に少ない。いざるようにノロノロ進む渋滞路の左端を、歩道に乗ったり車道に降りたりしながら続々と一列縦隊でやってくるオートバイたち。四輪車は左に折れて脇道に入りたいため、ウインカーを出して脇道近くににじり寄っているというのに、その一列縦隊は一台として停まろうとしない。大きい交差点では、赤信号なのに右からの流れが途絶えれば交差点の真ん中まで進入し、左からの車が途切れると猛然ダッシュして押し渡る。インドネシアのオートバイは無法ドライバーだ、と多くの人が語っているが、四輪車とオートバイの事故が起きれば、道路状況や交通法規に照らしての正誤の斟酌などなしに必ず四輪車が責任を追及されるそうで、これも交通法規より上位に置かれているきわめて人道的な弱者保護原理に由来しているとわたしは推測する。

おかげでオートバイ乗りは自分を弱者だと認識し、人道主義に基づいてみんなは弱者であるわたしを保護し、優先しなければならないのだ、という強い甘えの中に身を浸すにちがいない。だから何をしても許されるはずだという一方的な理解がかれらを無法者の世界に導くのだろう。しかし二輪車に乗ったゴリラと四輪車に乗っているヒヒは、近代以降培われてきたヒューマニズム原理に基づけば原則的には対等であるはずであり、おまけにその両者を車から降ろせばゴリラの方が強者になるのだ。ところが二輪車に乗っているというテンタティブな状況の中で自分を弱者に位置付けるゴリラは、どうして弱者としての行動を路上で示そうとしないのだろうか。

そのようにして、あたかも唯我独尊のごとく路上を我物顔に走り、歩道や陸橋すら乗ったままで押し渡るオートバイライダーたちの現実は、実は悲惨なものなのだ。2003年に発生した交通事故13,399件中オートバイがからんだものは9,386件もあったし、2004年には総事故件数17,732件中オートバイが関与したものは14,223件にのぼった。2003年に全国で登録されている車両累計は2千6百万台あったが、二輪車はそのうちの1千9百万台を占める。底辺にあった公共運送機関のサービスの悪さや犯罪のリスク、それに加えて家計内での交通費の重圧という動機が消費者金融拡大で一気に国民を二輪車購入に走らせたのが近年の二輪車販売台数激増の要因であり、石油燃料値上げに引きずられての交通費の更なる上昇が二輪車購入意欲をさらに煽り立てるベクトルを持つのは言うまでもない。自転車替わりにオートバイに乗るライダーたちの無法度を鎮めなければ、交通事故件数はますます増加し、交通戦争で討ち死にする弱者は更に増えるに違いないのだから。

そして場所によっては、とても不思議な現象を体験することもある。都内でベチャが廃止されて以来、その代替として盛んになったのがオジェッと呼ばれる二輪タクシーで、ジャカルタのコタ地区の一部で使われている自転車を除けば、二輪タクシーはオートバイというのが通り相場になっている。二輪タクシー運転手とは、つまりオートバイ乗りなのだ。

都内の公共輸送は、ビスコタと呼ばれる中型大型バスとミクロレッあるいはアンコッと呼ばれる小型乗合が庶民の足として機能しているが、それらは大通りをメインに、定められたルートを通ってターミナル間を往復するだけであり、その路線から離れた場所の人々は、その路線まで行くのに二輪タクシーのオジェッ、三輪タクシーのバジャイ、四輪のいわゆるタクシーなどを使わないとすれば徒歩しかない。一番安いのが二輪タクシーだから、オジェッの需要が一番大きいという事実もうなずける。

かれらオジェッ運転手は、ストラテジックな場所に集まってオジェッ溜りを形成し、オートバイを道路脇に道路方向に直角になるように整然と並べる。おかげで道路の左寄り車線がオートバイの長さだけ占拠される。一車線道路でも気にしない、というケースが多い。場所によって歩行者の往来が激しいところは、歩行者の通り道を確保するためにオートバイを更に車道側に押し出して並べている。その結果、その道路は四輪車一台が通れるぎりぎりの幅しか残されないことになる。そこを平気な顔で通り抜けるのが、ジャカルタ・ドライバーの実力というものだろう。

中には「ぶつけてみやがれ」とでも言いたいようなぎりぎりの位置にオートバイを止めている運転手もいて、本気で四輪運転者に喧嘩を売っているのか、引っ掛けさせて損害賠償をたかり取ろうとしているのか、それとも頭の中が本当にホワイトブランクなのか、それを推し量るのに戸惑ってしまう実に不思議なシチュエーションに直面することもある。

  (文・西祥郎)

ジャカルタドライバー考は西祥郎さん提供です。
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