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| Part1 平成十×年、森田新総理誕生する。〜その2 (2005.8.19) |
彼らの企てている陰謀とは、『完全中央集権制による日本社会主義帝国』の建設であった。日本国憲法で定められた『国会は唯一の立法機関である』一行はもうどこかに葬られ(中学校の教科書に登場する程度)、法律のほとんどは官僚の支配する内閣法制局がすべて作成した。国会はすべて官僚の書いたシナリオ通り行われ、法案は審議されることもなく、ほとんどが可決されていく。政治家には表の権力を与え、官僚は裏で政治家を操った。規制緩和や地方分権制度が遅々としか進まないのも、すべて官僚の意向による。さらには住民基本台帳法、盗聴法で国民全体を管理・統合できるシステムを作り上げ、メディア規制三法案では言論の自由を封殺した。そして極めつけが『ゆとり教育』を柱とする教育改革である。学校を完全週休二日制にし、授業内容を大幅に削減。「国家に盾突く輩を今の内に駆逐する」「思考能力のない国民を管理するのは簡単」と一般国民を『アホ・バカ』に教育しようとするのであった。古代ローマ帝国、崩壊したソビエト社会主義共和国連邦、現代で唯一残っている社会主義大国・中国さえ凌駕する新社会主義帝国の建設――表向き資本主義国家を装いながら、巧みに国民を操り管理するシステムを、一部政治家および官僚が着々と構築しているのである。
小根澄総理の後を継いだ橋本鬼太郎の公約の中心は「官僚の天下り前面禁止、天下りのために作られた財団・公社などの各機関を全廃止、官僚制度の改革」であったが、実はこれも予め官僚諸氏と申し合わせた結果であった。国民を煙にまくため、天下り廃止を訴えただけ。「仰せごもっとも」と官僚諸氏を従わせる→内閣支持率が上がる→政権を維持→国民を管理→国民が忘れた頃に新たな官僚優遇政策施行。これまた、きっちりシナリオがあるのであった。特に、自民党幹事長が官僚達に確約していた、現役を退いた官僚達で構成される『内閣法制局元老院』の設置は、従来の天下り機関に代わる、強力な官僚保護組織として、将来日本社会主義帝国の中枢機関となる予定である。
ところが、この橋本鬼太郎、蛸花隆の大論文『平成大研究―日本の失政』で与野党が国民から大糾弾され、国会が大混乱になっている中、急死する。
ある夜の出来事――。橋本は入浴中であった。
「ふん、ふ、ふん、ふん、ふん、ふ、ふ、ふーん(いーい、湯だな、ハッ、ハハハーン)」と機嫌良く鼻歌を歌い、総理に再就任した喜びを噛みしめていた。国民の追及をいかに躱(かわ)すかはお手の物。今回は野党も同穴の狢(むじな)、野党からの追及はない。内閣支持率は最低であるも、野党に政権を奪われるなんてあり得まい…とほくそ笑んでいたところ、そこへいきなり神様が現れて、「ええ加減にせい」とポカリ、橋本の頭に拳骨を食らわした。橋本は慌てて湯船から飛び出し、風呂場を脱出しようとするその刹那、足元の石鹸に気付かずスッテンコロリン、タイルに後頭部を打ち付けた。儚くもその瞬間橋本のすべての夢費え、帰らぬ人となってしまったのである。
さあ自民党は慌てた。時の幹事長は最中広宇、政調会長が山崎魚拓、総務会長は青木美智悪、官房長官は福田マスオで、この四人に国会対策委員長の佳麗静香が加わり、早急に新総理を決定せねばならぬ高級料亭密談が行われた。
誰を総理に選ぶか――順当にいけば最中であったろう。ところが最中は蛸花の大論文『平成大研究―日本の失政』で、中国および北朝鮮との蜜月を暴露され、第一級の国賊扱い、最も国民から糾弾されていた。両国に便宜を図り(多額のODA捻出、日本国内北朝鮮系銀行への公的資金投入)、その見返りに多額の政治資金を受け取っているというもの。山崎、青木、福田や佳麗にしても同じ事、何しろ国会議員の半数以上、しかも党内では実力者とされるほとんどが、不正疑惑やスキャンダルで蛸花の大論文に登場する。そこで「白羽の矢が立った」男が、自民党のさわやか議員、今は冷や飯を食わされている男、森田金作である――。
「森田なら国民の人気は高い。少々頼りない気はするが、不正疑惑やスキャンダルからもっとも遠い『清潔・純粋・さわやか』のイメージキャラは、自民党を覆う暗雲を払拭してくれよう。ほとぼりが冷めるまで森田に頑張ってもらい、国民が忘れた頃、また俺達が表舞台に登場すればよい」
が最中ら党首脳陣の最終結論であった。
そしてその密談の翌朝、自民党関係者らが慌しく、橋本鬼太郎前総理の葬儀段取りを打ち合わせている中、最中は森田に声をかけた。
「森田さん、総理をやってみんかね?」
「はあ、掃除ですか…」
と、ため息をついた。総理を掃除に聞き間違えた。森田はいよいよ掃除係をやらされるのかと思った。ずっと冷や飯を食わされてきたが、とうとう掃除係に回されるとは…。
「それで、どこの掃除をすればいいんでしょう?」
「日本に決まっておるじゃないか」
「それはかなり大変ですね」
「うむ、この最大の難局を切り抜けられるのは、君しかおらん。君、ぜひやってくれんか?」
「それは持ち回りですか?」
最中は嫌な顔をした。確かに持ち回りではあるが、お前はただの繋ぎだとも言えない。
「いずれは勇退する時も来ようが、それまでは志を新たに、日本を救うつもりでやってくれたまえ」
「業者に頼んでもいいんでしょうかねえ?」
「業者とは何事か!仮にも一国の総理大臣であるぞ!」
「えっ、総理大臣ですって!?」
森田はそう絶叫すると、白目を向いてバターンと仰向けにひっくり返った。こうして日本史上初の元青春スター内閣総理大臣が誕生したのである。
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