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新国家「大和」、日本より分離独立を宣言する。

Part1 平成十×年、森田新総理誕生する。〜その3 (2005.8.20)

森田は気がつくと議員宿舎の一室で手当てを受けていた。森田は「俺はいま夢を見ていたのだろうか」と思った。「いや夢にちがいない。そんなうまい話があるはずない」と勝手に謙虚に自分を戒めていたところ、最中や山崎らがどやどやと入室してきた。

「おお、目が冷めたか。いきなりぶっ倒れたので心配したぞ」と最中。
「申し訳ありません、幹事長。早速葬儀の打ち合わせに戻りますから」
森田は本当に申し訳なさそうである。
「そんなことは放っておきなさい。いや放っておく訳にもいかんか。君が葬儀委員長なのだからな」
「はあ?」森田はまだピンとこない。
「前総理の葬儀を君が仕切るのだ。新総理として初の大仕事だな。頑張ってくれよ」
「す、すると、さ、さっきのは夢ではなかったのですか?」
「なあに、心配はいらん。難しいことは一切考えんで宜しい。私らが全力を上げて君を応援する。君は大船に乗ったつもりで、舵取りさえやってくれればよい。舵取りが面倒なら、それも私らがやってやるから」
最中らのにこやかな笑顔・心優しい気遣い・慇懃な態度は、森田がまだ芸能界にいた頃、自民党から衆議院議員への立候補を初打診されたとき以来のものであった。
「でも…、いきなり総理といっても…、私にできるのでしょうか?」森田は心細げに言う。
「うむ、それは心配しないでいい。あの森与太郎でさえ総理をやっておったじゃないか。あれに比べれば、君の方がはるかに総理の器と言えよう」
森与太郎元総理は日本のみならず世界中で、間抜けな言動を繰り返し、「日本だけならまだしも世界にまで恥をさらすな!」と国民の大顰蹙(ひんしゅく)を買い、ついにはその間抜けな言動で総理の職をパーにした男である。

そこまで言われると、森田はだんだん元気がでてきた。自分にも総理大臣がやれるような勇気が湧いてきた。そこは機を見るのが超得意な自民党実力者達、最中がすかさず言う。
「おおっ、ようやく決心してくれたようだな、森田さん、いや森田新総理。『我が思い天に通じる』だ。今宵は赤坂で宴といくか。おっと、橋本の葬儀を忘れるところだった」
最中以下、山崎、青木、佳麗、福田と大笑い、思わず森田も苦笑い。
同じくそこにもう一人、ある男がいた。七・三にびしっと髪を整え、笑みを浮かべる黒ぶち眼鏡、自民党実力者達に囲まれても一切物怖じしない、落ち着き払った堂々たる態度、いかにも頭が良さそうな、いや、僕は頭が良いよと顔に書いてある、ある男がいた。政治家ではない。
「森田総理、彼を知っているだろう。今日から君を支えてくれる男だ」
最中以下全員が旧に押し黙った。空気が一変した。森田もその瞬間、ギクっとした。さっきまでの穏やかさは消え、場は急に重々しい空気に包まれた。さきほどまでの、やわらかな言葉遣いとは百八十度打って変わった、どすの利いた口調で、最中はその男を紹介した。
「君もよく知っていよう。元内閣法制局長、小津武雄紗瑠(おつむおさる)さんだ――」

小津武雄紗瑠(おつむおさる)――元内閣法制局長。東京大学法学部在学中に国家公務員上級試験、司法試験合格。卒業後大蔵省入省。大蔵省主税局、内閣法制局を経て、内閣法制局長に昇格。エリート中のエリート。内閣法制局長を勇退するも院政を敷き、影の総理として君臨。自民党実力者らの参謀として、政府を意のままに動かす。

森田は勿論知っている。国会のやり取りでも、政策会議でも、総理や他の大臣にアドバイスするのは、彼(小津武)の役目であった。全議員の憧れが総理大臣なら、全エリートの憧れが彼なのだろうなあと感心してその様子を眺めたものだった。そんな彼が、陰に陽に森田を補佐してくれると言うのだ。最中は続ける。
「森田さん、何にも心配いらないってことが、よくわかったろう。新総理の所信表明も、国会での全答弁も、党内・党外での全演説も、何もかも俺達が考える。君は言われた通りにすればいいのだ」
森田は、それでは私はただの操り人形じゃないですか――と言おうとした。その森田の怪訝な表情を見過ごさない最中は
「なあ、森田さん。君も自民党が危ういことは、よくわかっていよう。頼む、この通りだ。自民党、いや日本国を救ってくれんか?」
と森田の左手を、最中は両手でがっちり握り締め哀願する。こうされると森田は弱い。
「今回無事総理を務め、自民党が再生した暁には、永久比例名簿十位以内、いやそれが不満であるなら五位以内でも構わん、米駐在大使のポストも用意する。どうだ」
もう断れる状況ではなかった。やるしかなかった。

適わぬ夢であった総理大臣にいよいよ就任する。にもかかわらず、そんな訳で森田は憂鬱で仕方ない。「よし、やるぞ」と気を持ち直しても、五分もしないうち「でもなあ…」と沈むのである。そう葛藤を繰り返すうち、一日経ち、二日経ち、とうとう新総理所信表明の日がやってきた。


以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。

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