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新国家「大和」、日本より分離独立を宣言する。

Part1 平成十×年、森田新総理誕生する。〜その4 (2005.8.22)

その日は朝から日本全体が落ち着かなかった。「森田で大丈夫なのか」と国民の大半が不安であったに違いない。

所信表明が行われる国会議事堂では、揚げ足を取ろうと意地悪く観察する野党、評論家、マスコミ連中、何もバカなことは口ずさみませんようにと一心に祈る与党関係者が、いまやおそしと森田新総理の登場を待ち構えていた。そしていよいよ森田新総理が登場――

ところが、大講堂の壇上に歩を進める森田、今から所信表明を始めるというのに、手ぶらなのである。分厚い原稿を用意し、拳を振り上げながら、力強く読み上げる――のが通常今までの所信表明であった。なのに「手ぶらとはどういうことか、原稿を忘れるという間抜けをいきなりやらかしよった」と、その場の誰もがそう思ったはずである。しかし森田は一向に動じる気配なく
「日本全国民の皆様、そしてここ国会にお集まりの議員諸氏および関係者の皆様、第九十代内閣総理大臣に任命された森田金作でございます」
と、おもむろに演説を始めた。原稿を一切読まず(目の前にないのだから読みようがない)、さらさらと詰まることなく、時には力強く、時には柔らかく、時にはユーモアも交え、堂々と演説していくのである。まさしく「非の打ちどころがない」と言っていい演説であった。その場にいる全員、テレビを見ている全国民が、目を丸くした。驚いた。そして演説がひととおり終わった後、大きな拍手喝采が巻き起こり
「ただのタレント議員と思っていたら、よく勉強しているではないか」
「これは案外期待してもよいのではないか」
「歴代総理の所信表明演説よりよっぽどいい」
と概ね好意的な意見が大勢を占め、関係者だけでなく、国民の多くも森田を見直したのである。

この所信表明演説で森田の株は上がった。特に所信表明の夜、各民放テレビ局のニュース特番に出演、『ニュース・ステータス』では公家浩志、『朝までだらだらテレビ(略して朝だら)』では田原長一郎各氏と対談、政治家としての知識・見識そして堂々たる態度に、与党も野党も一般国民もみんな「どうやらこれはただのタレント総理ではなさそうだ」と思ったようだった、いや確信した。当日夜の世論調査では「森田新総理を支持する」が九十パーセント以上を超えた。森田はこれほど優秀な政治家であったのか――。実はこれは森田を操る最中の作戦がずばっと当たったのである。

最中の作戦とは――森田の耳中には、外部から気付かれることのない小型受信機が入っていた。所信表明は、さすがは元役者であり、大半が暗記してきたものであったが、思わず忘れそう、あるいは言い間違えそうな個所は、全部小型通信機の向こうで最中らが補完した。さらには、小津武元内閣法制局長が『各省庁から集めたエリート官僚』チームを結成し、各種法律問題や新法案の懸念事項に関して、どんな質問でも即座に的確な答えを導いた。やはりそれらも「小型受信機を通して森田新総理に伝えられた」のである。

これでしばらくの間は、国民も黙っているだろう。その間、経済も上向きになりさえすれ、今より悪くなることはあるまい。駄目なら森田の首を切ればいいだけの話。蛸花の大論文のことだって国民はすぐに忘れよう――が最中の計算であった。しかし、そう上手く問屋は卸さない。あまりに見事に作戦成功したため、思わず油断した。内閣人事に失敗した。その失敗した人事とは――

国土交通大臣に稼盗紘一(かとうこういち)――自民党のプリンスとして、時期総理と呼ばれたこともあったが、秘書と共謀し建設会社へ多額の賄賂要求をしたことが大暴露され議員辞職。しかし党内の人望厚く、復帰望む声もあり、ドサクサに紛れて入閣――。

外務大臣に鈴木スネオ――かつて外務省や外務官僚を意のままに操った男。飴(外務省への政府予算分捕り)と鞭(恫喝)を使い外務省を牛耳るも、北方領土国後島の宿泊施設「友好の家」(通称・スネオハウス)建設工事に関する不正入札や、怪しげなコンゴ人秘書問題ほか各種疑惑が発覚し失墜。野党議員には「疑惑の総合商社」と罵られ(もっともこの罵った議員は秘書給与ピンハネ疑惑を暴露され、あっという間に議員辞職へ追い込まれたが)、あまりにも多すぎる不正に日本中(自民党の一部を除く〜金を配っていたため)を敵に回した男――。

特に鈴木外務大臣就任は、(最中が鈴木に)泣いて頼まれたからであった。「今はまだ早い」と鈴木に説得してみたが、駄々を捏ねる子供のようで、鈴木はまったく納得しない。(最中も鈴木に)金を集めてもらっていた以上、無下に断る訳にもいかぬ。稼盗も鈴木も、なんとか森田の人気で誤魔化せるだろう…。そう思ったのが運の尽き、九十パーセント以上あった森田新総理の支持が、新内閣人事発表とともに五十パーセント近くに急落するのであった。

国民は怒った。「一夜にして裏切られた」と思ったのは、国民も最中らも立場違えど同じであった。こうなったら稼盗も鈴木も切るしかない…。再び赤坂の高級料亭では、最中ら自民首脳部が集まり、密談が始まる。両二名をどう納得させるかが焦点となり、結局、全員が最中に一任するといった形で、その密談は終わった。ところが明くる日、稼盗と鈴木両氏を説得すべく意を決した最中に、いや日本中に、そんな間抜けな人事問題などぶっ飛ぶ珍事件、いや大事件が勃発した。東京から約千百キロ南に離れた小笠原諸島の一部が新国家『大和』として、日本から分離独立を宣言したのである。


以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。

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