 |

ジェイピープルはインドネシアジャカルタ発のインターネットマガジンです(日曜日を除く毎日更新)。
|

|
| Part2 大和、分離独立を宣言する〜その3 (2005.8.25) |
そしてその明日の話――。午前十一時を回ったところ、遥か向こうに入道雲が見える以外、すっかり青空の広がる、小笠原村役場前公園。陽射しがチクチク皮膚を刺激する。
公園にはテントおよびその中にステージが設けられ、おそらく大室直吉老人が登場し演説するであろう、数多くのマイクが備え付けられた長机が一脚、そして椅子が三脚用意されていた。ステージ前に集まったマスコミ関係者、父島および母島の住民、さらには偶然旅行中の観光客、およそ五百名。空にはバタバタと物々しいヘリコプターの駆動音、広場前では各テレビ局のキャスターがマイク片手に、その様子を全国にレポートするも、皆すっかり興奮気味で、なかなか要領を得ず、何を言いたいのか視聴者はよくわからない。
もっともお茶の間の視聴者は、「小笠原が独立なんてねえ」「遠いからなあ」「そんな夢みたいなこと」とどちらかといえば否定的な見方、あるいはまさしく「対岸の火事」的見方が多く、なかば興味本位で、なかば楽しみながら、これから芝居が始まるかのごとく、この独立劇を鑑賞しようとしていた。
ところがまもなく正午というのに、一向に大室直吉老人の現れる気配がない。もとよりざわざわしていたが、さらにざわざわしだす中、いきなり南の方角から爆音がした。青い空に赤い煙が舞いあがる。その爆音は単発でなく連続した。赤い煙も鮮やかとは言い難いが連続で舞い上がった。「何だ、あれは?!」そこにいるすべての者が、その方向へ注目した。全テレビカメラもその赤い煙を映し全国に中継した。そして爆音が鳴り止んだその瞬間――
「お待たせしました。儂が小笠原妾島住人そして新独立国『大和』暫定政府代表の大室直吉です」
マイクを通して重く静かに響き渡る老人の声。そこにいるもの全員が爆音に注目している間、どこからともなく現れ、いつの間にやらステージに大室直吉老人が登場。さらにはその両隣に直吉老人を警護するような格好で、二人の屈強な男(体つきはまるでプロレスラー)が、現役プロレスラーであるケンドウ・マシンのマスクを被り、堂々と控えている。
一同は一斉に振り返った。目の前にいるのが、一昨日突如全国を仰天させた、あの大室直吉?一同目を見張った。何しろ全員が初めて直吉老人を見るのである。腰まで伸びた白い髪、白い口ひげ、白いあごひげ、身に纏った白い布。黒ぶちメガネに違和感を覚えるも、仙人と見間違えしその風貌。おまけには、両脇に控える、マスクを被った怪しげな男が二人。「どっきりカメラでーす」と思わず口にしても、今だったらまだ間に合ったかも知れず、ひょっとしたら「いやあ、まいったなあ」と笑って許されたかもしれない。
政府関係者、お茶の間の全国視聴者、街頭の大型スクリーンを注目する通行人、家電売り場のテレビに群がる客、店員、皆一斉にひっくり返った。「何だ、この胡散臭い連中は」が、ほぼ大方の見方であった。
雁首揃えた官邸の連中も驚いた。というより呆れた。福田官房長官はホッと胸を撫で下ろし、ほんのしばらくしてから
「許せんな、まったく」
「これはプロレスの宣伝ではないか」
「そうだとしたら騒乱罪の適用を考えてもいい」
「まあ、じっくり聞いてやろうじゃないか。これだけ騒がせたのだから」
ふたたび小笠原父島――。本土はひっくり返っていたが、こちらは生ということもあり、全員が固唾を飲み、その様子を見守っていた。直吉老人はおもむろに淡々と喋り始めた。
「この両名は、有志近隣島代表の二人です。訳あってマスクを付けております。御容赦願いたい」
少し間をあけて、話を続ける。
「さて、一昨日新国家『大和』の日本より分離独立を宣言したところ、急な話にも関わらず、こんなに多くのマスコミの方々に御来訪頂き、まず感謝の意を表したい。
「既に一昨日の独立宣言で謳ったところの内容は、もう日本全国民がわかっていようし、今更くどく語ってみたところで、国賊どもには蛙の面に何とかで、あの輩が国を牛耳っている以上、もう何にも変わることもあるまい。勿論一般国民までも私利私欲に走りと罵ってはみたが、何とか日本を立ち直らせるべく、健気に運動を行っておる多くの志士がいることも知っておる。
「だがな、儂の見るところ……(一呼吸おいて)、日本はもう終わりじゃ。儂は思うところあり、終戦後ずーと遁世しておった。思うところとはのう、敗戦後日本がどう立ち直っていくかを黙って見続けることじゃった。終戦で年寄りの出る幕は終わった。いつまでも古い世代が居残って『ああだ』とか『こうだ』とか言うては、世の中が進んでいかんわい。明治から生き続けた老い耄れじゃ、いつ死んでも構わん。日本が復興し、そして国民が平和になるのを見届けさえすれば、小笠原の無人島でひっそり死んでいこうと思うておった。ところがどうじゃ、今の日本は……。民も官も政も、年寄りがいつまでたっても引退しようとせん。おまけに色ボケ、銭ボケ、ボケ、ボケだらけ。いつから日本はこんな醜い奴らの巣窟になってしもうたのかのう。
「あの崇高な日本精神は何であったか?礼儀正しく、公明正大、誠心誠意、優しさと思いやり、謙虚と尊敬、あの日本精神はどこへ行ってしまったのか。質実剛健をモットーとする日本男児はどこへ行ったか。慎ましさ・優しさそして内に秘めた情熱を持つ大和撫子はどこへ行ったか。――もうどこにもいやせんわ。オカマや男女ばかりではないか。おまけに赤頭、黄頭、青頭、顔黒、山姥、妖怪までが街中を闊歩し、日本語とは程遠い変態言葉を話しよる。パスポートがなければ誰も日本人として認めてくれはせんぞ。日本はすっかり正体不明の国になってしもうた」
直吉老人はそこまで一気に捲くし立てた。
「ふっー(少し息をついて)。少々感情的になってしもうた、まあ許してくれい。皆さんもそんな年寄りの戯言を聞きとうないわのう。ほっ、ほっ、ほっ」
直吉老人一人の笑い声が、村役場前公園に響き渡る。そして一呼吸おいていきなり
「さあ、刮目せよ!」
そこにいる全員が、いやこの一言で、日本全国この中継を見ている全員が、あらためて直吉老人を注視した。
「新国家『大和』は、他人を思いやることのできる心優しい日本人をもう一度作り上げる礎となるぞい。そしてその礎をともに築く同志を集う。我と思わん者はよう聞け!」
|
以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。
※タイトルをクリックすると初回から読めます。
|
|
|
※このサイトに掲載されている内容(データ)は ジェイビープルが所有するものであり、無断転載、転用及び無断複製は一切禁止します。
※リンクはフリーです。Copyright(c)2004-2005 JPEOPLE |