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| Part4 日本政府、大和と対話する。〜その6(2005.9.19) |
「真面目に楽しく働いてこそ充実が得られると思わんかね?そして国民が豊かになり、国が栄えていくわけじゃのう……。今日のところはこんなもんで良かろう。どうじゃな?」
「それとね、どうしても聞いておきたいことがひとつあるんですけど……。宗教の問題はどうかしら?やっぱり大和では神道に固執されるのかしら?」
「日本人は、聖徳太子が仏教を保護されて以来、神道を信じ、仏教を信じ、儒教を信じ、ついでにキリスト教まで信じる、外国人には到底理解できん、不思議な宗教観を持つ民族よのう。しかし儂はそれでいいと思うておるよ。『八百万の神』と言われるように、神様は至るところにおるという考え方は踏襲するつもりでおる。(メモ帳を指して)たとえばこの紙の中にも、紙の神様がいらっしゃるということじゃ。意味もなくびりびりと破けば罰が当たろう。世の中すべてそう思えば、物を大事に扱い、自然を慈しむようになるわい。『勿体無い』という言葉が大和の根幹をなす宗教観じゃわな……。だから国教は大和仏教神道ということになるわい。ただし信教の自由は認める。どんな宗教を信じようが構わんよ。既に『勿体無い』という概念、日本人の血肉となっておる。何教を信じようと日本人である事実は変わらん。だがひとつだけお断りしておく。自分とこだけが唯一正しい言うて他の宗派・宗教を攻撃し、徒党を組んで大和を蹂躙するような団体は一切認めんからな。大和の国防省には宗教庁があって、世界中のおかしな宗教団体を常に研究しよる。大和は小さな国じゃからなあ。宗教が国の存亡に関わる危険性もあるわい。学校でも哲学・宗教の時間があるよってな。子供のときから世界中のあらゆる哲学・宗教について教えるよ。これは怪しい新興宗教に惑わされんで済むようにするためじゃ」
「えー、厳しい質問を致します。ちょっと畏まってっと……。神道仏教を国教にするということは天皇制にも何らかのご意見があると思います。日本の天皇制はどうお考えですか?」
「天皇を現人神と考える日本人はもうおらんじゃろうなあ。大和は仏教神道を国教とするから言うて、天皇を神とは思うておらんよ。歴史で考えるなら大昔に出現した最初の豪族の棟梁じゃのう。そして現在の天皇陛下はその末裔いうこっちゃ。天皇制を採用する理論的根拠は何にもありゃあせんわい……。しかしなあ、天皇は日本の歴史そのもんじゃ。天皇がおらんかったら、日本の文化は産まれてこんかったわい。あんたも日本の文化ようわかるじゃろう、貴族の文化、武家の文化、町人の文化、わび、さび、粋、書の道、茶の道、剣の道、清少納言に紫式部、兼好法師に紀貫之、漱石、川端、芥川……。なあ、この文化、天皇がおらんかったらまず産まれてこんかったと思わんかい?何云々は違うと言うなかれ。ルーツは天皇にいきつくぞ。だからのう『日本文化は尊重するが、天皇を認めん』言う方が間違えちょる。それにのう、日本中いや世界中を見回して、私利私欲を捨て他人のためだけを思うて働いている人が何人おる?数えるほどしかおらんじゃろう……。そんな一族、そんな一家ひとつぐらい、理屈抜きで尊敬する。それが日本精神と違うかい?」
「じゃあ、大和は天皇がいらっしゃらなくても天皇制を採用?」
「そのうち日本が潰れよる。天皇家の受け皿がのうたら困るじゃろう。ほっ、ほっ、ほっ」
「うーん(感心して唸る)。ほんと至れり尽くせりですねえ。(ちょっと間を置いて)えー、それでは最後に、大和移住を考えていらっしゃる方々に、どうしても言っておかなければならない事をお聞かせ願えますか」
「おっと、肝心なことを忘れるところじゃった」
直吉老人はテレビカメラに向かい直り
「大和はけっして楽園ではないぞ。大和はこれから国を作っていく。当然産みの苦しみはあるわい。その先に何があるかは、到達してみんことにはわからん。だがのう『大和魂を持った人々は、必ずや己らの理想を実現させる』と儂は信じておるよ」
さらに直吉老人は続けて
「ここからが一番大切なことじゃから、移住を考えておる人、よう聞いておくれよ。儂が今まで語ったことは政治家の公約ではないぞ。既に決まっておることばかりじゃわい。しかし大和がまだ分離独立していない事実はある。問題はここぞい。これから大和を独立させねばならんのじゃ。そのとき日本政府が黙って独立を許すと思うか?十万人の日本人が国籍放棄するのを黙認すると思うか?きっと日本政府は大和を殲滅しようとするぞ。大和移住者を犯罪者として片っ端から始末していくかもしれんぞ。大和独立が未遂に終わったら、仮に生き残ったとしても、何らかの罰は待っておるぞ。それでも大和に移住したいかどうか――。ここからは皆さんの選択ですわい。かつて血を流さず独立を勝ち取った国など『一つもない』と言うことも付け加えておく。そしてもうひとつ大事なことがある。よう聞いておくれ。大和国民として最低守らねばならん義務の話じゃ。さっき儂は『十七歳から二十歳までは自由、モラトリアム期間』と言うた。そして二十一歳から仕事に就けるとな。それでは二十歳より二十一歳までの一年間何をするか――」
直吉老人は一呼吸置いて続ける。
「軍事訓練に参加してもらうわい。一年間の軍事訓練じゃ、いわば徴兵制よ。大和はたった十万人の小国じゃ。自分らで守らな誰も守ってくれん。これが大和国民の義務じゃ。が、強制はせん。そのために三年間のモラトリアム期間がある。どうしても軍事訓練を拒否するなら、大和を捨ててもらっても構わん。非国民と呼ぶことも呼ばせることもせんよ。罰もない。ただし大和に住むことはできんがな。自分の子供に軍事訓練させたくないのであれば、大和移住は諦めてくれい。それからなあ、『命など惜しくない』と嘯く極右の皆さんはお断りするよ。大和国民は、謙虚で優しく慎ましく、けっして争いごとを好まぬ、尊い精神の持ち主ばかりじゃ。あんたら軍歌やら装甲車やらうるさいからのう」
そして最後に直吉老人は
「大和は『命は惜しい、でもそれ以上に信念は曲げたくない』誇り高き人々の集まりじゃ。その考えを右翼思想、軍国主義と言うなら、そう言うてもろうて結構。それでも大和に移住したい人だけ集まってくれれば、それでええと思うておるよ。移住申し込みの詳細および大和の全貌は三日後の正午にお伝えする。しばし待たれい」
さあ、日本国中は驚いた。今まで思っても考えてもみなかった徴兵制。徴兵なんて所詮映画の中の話、歴史の一コマ。日本はアメリカが守ってくれ、自衛隊が自分達の代わりに戦ってくれると都合のいい防衛論を信じてきた一般国民。大和に移住しなければ関係のない話であるにも関わらず、明日にでも自分が戦地へ赴くよう命令された気分となり、今まで八割近くが好意的であった世論も、『大和は徴兵制』の一言で一変した。これを利用せぬ手はない。官邸の最中以下日本政府首脳陣、暗闇に一条の光を見つけたごとく、反撃態勢を整え始めた。
「大和め、とうとう尻尾を出しよった。日本が戦後数十年かけて作り上げた防衛システムに旧態依然の徴兵制とは……。外国人の傭兵でも用意されたら厄介なことになると思ってはいたが、その憂いは完全に消えた。これはおたきさんにも朗報だろう。あの老人を攻めこむ突破口になるぞ」
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以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。
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