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新国家「大和」、日本より分離独立を宣言する。

Part5 日本政府、多いにいらつく。〜その6(2005.10.6)

 さらに直吉老人続ける。
「あんたらには大和を容認してもらう。大和と日本政府は協力関係を結ぶんじゃ。そして地方が分離独立を騒ぎ立てる前に地方分権法を制定し、アメリカのような州連邦制を採用する。そして天下り機関の全廃や官僚制の大改革を実行。さらには大企業支援、銀行支援、官民の癒着、とにかく悪習とされているもの全部、有無を言わせず強制排除する。逆らう奴は刑務所に放り込めばええ。これら全部、半年でやってしまえ」
「そ、そんな……、そんな簡単に事が運ぶ訳ありません。日本は法治国家ですぞ。法の遵守、議会の承認を経ない限り、何事も決まらん。それに既得権を主張する連中が黙っているはずない!」
「だからそれを強制的にやるのではないか。一時的に絶対主義の時代に戻ればええだけの話よ」
「そんなことが断行できるはずない。ここにいる我々だって強制排除されかねない。政官民は既に一体となっている!」
「そこでじゃ。半年でそれを断行した後、あんたら『一時的に公権力を濫用し、国家を混乱させた』言うて全員議員辞職、犯罪の疑いがあると思うなら、潔う自ら司直にその審判を委ねればよいわ。そうなれば誰も独立のことなんぞ忘れよる。クーデターなんか起こらんわい。あんたらは自らの政治生命を賭して、多くの命を救うことになるんぞい。本望じゃろうが。後の政治は若い連中に任せればええ。日本の大改革・大掃除をやってくれた後じゃ。若い連中はあんたらに心から感謝しよるぞ。それにのう、あんたらは国民のヒーローにもなるぞ。たとえ逮捕されたとしても実刑は食らわんよ。世論がそんなことを許さんわ。若い連中の相談役としていつまでも大事にされるぞ。平成の英雄達として未来永劫歴史に名を刻まれるぞ。大和では最高功労者として大歓迎するぞ」
「ば、馬鹿な!戯言に過ぎん!大室先生、私達を誑かすのはやめてください!これは取引ではない。私達に辞職せよと言っているのだ。誰がそんな手にのりますか!」
「取引不成立ということか。どこまでも愚かな方々よ。どの道、あんたらは将来辞職することになるじゃろう。大和を押さえることさえできんのじゃからなあ。日本は間違いなく火の海となる。あんたらは英雄どころか国賊として百年先まで汚名を被るじゃろう。せめて命だけは助かればよいが……。万一のときは大和に亡命しなされ、命を奪うようなことはせんから。他の皆さんはどうじゃな?」
「そんなもの、全員反対に決まっている!なあ、皆さん、そうでしょう!」
そこへ口を挟んだのが扇十影――
「あのう、大室先生、本当に日本が火の海になると……お考えですか?(かなり不安げに)」
「扇さんか。あんた昔は別嬪じゃったのう、いや今でも十分別嬪さんであるが……。ワイドショーの司会をやっておるまでは、儂はあんたのファンじゃったよ。なぜ政治の世界に参られた?そんなに政治の世界、魅力あるかえ?あんたはいい人よのう。儂が日本の総理であれば、大臣なんぞにせず、欧州親善大使にでも任命しておるところじゃった。おっと、どうでもよいことばかり喋ったなあ。では質問にお答えしよう。その通りじゃ、間違いなく火の海になる。大和が独立宣言する前の状況を考えよ。大正デモクラシー以来の市民運動盛り上がり、有名人の市民運動参加、国民運動と言ってよいわのう。政治家はほとんど有効な対策を講じることなしに政権争いしているだけ、国民の不満は蓄積する一方、これらは既に臨界点ぎりぎりであると言えよう。いつ爆発してもおかしゅうない。大和騒ぎで小康状態を保っておるが、またぶり返すぞ。以前の何倍いや何十倍になってな。極右や極左の連中も暴れ出す。手のつけられん状態になるぞ」
最中が遮って――
「扇さん!騙されてはいかん!日本は平和な法治国家だ。そんな状態になるはずがなかろう!」
「でも、私……、先生の言うことも何だかわかるような気がして……」
「それでは、扇さんは議員辞職されるわけですな?」と小沢剛一朗
「そうは言ってません!」
「大室氏は我らに命題を突きつけておるのだ。大和を阻止するか、議員を辞めるかどちらかのな。そうでしょう、大室先生!」
「さすがに小沢さんは話がわかりやすい。実は、儂は自由党の党理念・政策、結構買っておるぞ。大和の理念に最も近いと言えるかもしれんなあ」
「独立宣言以来、大和の理念を拝聴しておりましたが、共鳴する部分も多く、我が同胞ではないかと思えることさえありました。無理を承知でお願いしますが、自由党とともに日本を変えていくつもりはありませんか?」
「嫌じゃな。所詮あんたの政治は小手先。『毒を食らわば皿まで』のようなやり方では何にも変わらん。離党しようが、新党を旗揚げしようが、自民の古い体質が染み込んでおるわ。やり方が姑息なんじゃ、姑息。それにのう、あんたの人相……悪すぎる」
政策や理念を批判されるならともかく、人相まで悪く言われたらたまらない。小沢はブスっとしてしまい、しばらく押し黙ってしまった。
「政治家の諸君、まだ時間はある。明日正午まで考えてくれればよい。おお、そう、一人政治家でない方が混じっておったなあ。小津武さん、小津武元内閣法制局長!」
 小津武、分を弁えてか、控え目に末席で対談の様子を窺っていたが、直吉老人の呼び出しに応え、テレビカメラをキッと睨みつけた。
「小津武さん、あんた方にとってはさぞ悔しいことじゃろうなあ。儂も含め世間はさんざん官僚の悪口言うてきたからなあ。政治家なら公で反論することもできるわい。でも官僚は発言することを許されん。ただ耐えるのみじゃからなあ」
「発言してもよろしいでしょうか、最中幹事長?」
「遠慮無く」
「それでは……。おっほん、(もごもご)……。大室先生が仰ったように、我ら官僚は現在世間から悪鬼のごとく疎まれております。『政治家を操り日本政府を牛耳る魑魅魍魎』とまで罵られる始末。我らの使命は政治家諸氏の手足となり、国家・国民のため、影で日本を支えることにあります。国家が滞り無く運営されるよう、政官民の間を適時調整し、政治家諸氏に代わり法律を作り上げる。そうやって戦後日本は発展してきた。我ら官僚は影となり屋台骨となり日本を背負ってきたと自負しております。しかし、マスコミを筆頭とする世間は、まるで官僚が悪の権化・諸悪の根源であるような言い方しかしない。一体我々は何の為、誰の為に日々研鑚しているのでしょうか?」
「もっともな言い分じゃのう。それではお尋ねしたい。法律作成は本来国会・政治家だけに許されるもの。あんたら官僚の役割は、政治家が憂いなく政を行えるよう、枝葉末節までその法を調整し整備し、あくまでも連中の補佐、黒子に徹することではなかったか?にもかかわらず、法案のほとんどが官僚によって提出され、満足に国会審議も行われることなく可決、政治家はまったく官僚の傀儡となってしまいよった。それを分が過ぎた行為、強いては日本国憲法第四一条の法律違反であると思わんかね?」
「実際問題として、失礼を省みず申し上げますが、ここにいる政治家諸氏の提出する法案は、その多くが欠点だらけ矛盾だらけの欠陥法案なのであります。我々が法案を作成しなければ、審議は一向に進まず、さらには民間までが混乱し、国政が中断されるのであります。日本国憲法第四一条は既に有名無実。憲法改正も侭ならぬ現状で、我らに法律違反の疑いを云々されるのは……」
「お門違いと言うことじゃな。確かに……。政治家連中は忙しいでのう。やれ冠婚葬祭じゃあ、やれ後援会の会合じゃあ言うて、地元選挙区と国会を行ったり来たり。仕事よりも移動時間の方が長いんと違うかい?法律作成どころか法案を検討することもしよらん。勉強もしよらんじゃろう。プロレスをやりもって衆議院議員を務める輩もいるぐらいじゃからなあ。そりゃあ、官僚連中の憤り、察するに余りあるわい。しかしだからと言うて、官僚主導の行政、中央集権制の強化、遅々と進まぬ規制緩和、天下り機関の確保など、権力を握って離さぬ独裁者のごとき傍若無人が、許されることもあるまい」
「労多くして益少なし。幼少の頃より『秀才よ、天才よ、エリートよ』と煽てられ、勉学に勤しみ、国へ滅私奉公、そして愚鈍政治家の尻拭き、挙句の果てが世論による国賊扱い。これでは官僚が救われません」
「貧すれば鈍する――。そう言いたいのじゃろう。国家に忠誠を誓い、滅私奉公で務めに臨んでみたものの、扱いはただの公務員。将来の保障、微々たるもの。民間を選択せし学友どもは大企業の中枢、表舞台にて活躍、収入も天地程の差。せめて公権力を握るぐらい、天下り先を確保するぐらい、一体何が悪いのかとな。わかるぞ、その気持ち」
「官僚も所詮人間、人の子。欲はあります。それを正義感・責任感で排してまでの滅私奉公。官僚が報われるのはいつのことでしょうか?」
「儂はなあ、官僚の悪口は言うておるものの、その必要性は認めておる。日本のような大国を治めるには、あんたらのような優秀な頭脳が不可欠じゃ。官僚制は絶対必要じゃ。だから思いきって大改革するのよ。官僚主導の行政を全部改め、天下り機関も全部廃止する。しかし月給は最低でも百万、ボーナスは政治への貢献度を加味し歩合制、数百万から数千万を支給。定年時には勿論、大企業役員並みの退職金を支給する。ただし一旦官僚になったから言うて一生保障されるとは限らん。無能な官僚は即一般初級公務員に格下げよ。そうしてみい。官僚は誠心誠意国家国民のために働くぞ。『ノーパンしゃぶしゃぶ』で接待されるような奴は出て来んわい。小津武さん、それでも不満かえ?」
「我ら官僚は、政治家諸氏そして国家国民に忠誠を尽くします。当方からお願いできることではございません」
「官僚らしい答えじゃなあ。最中さん、どうなさるかね?」
最中は何も応えない。
「これで儂の助言は終了じゃ。それでは明日の大和全容発表をお楽しみに。それからもうひとつ――。儂は伊達に百年も長生きしておらん、儂を慕うてくれる者が結構おる、日本全国にな。彼らは儂の手足となって逐一情報を提供してくれるでなあ。お前さん方が『いつどこで集まって密談しよる』か、『どんな作戦を立てよるのか』ものう。密偵いわいるスパイじゃな。小笠原父島・母島にはマスコミもどきの連中が二百人ほど聞き込み捜査・大和探索しておるようだが、見つかりゃあせんよ。無駄じゃからおよしなされ。では失礼する。諸君らの決断により『日本が火の海になる』ことが回避されるよう祈る」

 極秘対談は終了した。いや大室直吉老人により一方的に終了された。これは取引でもお願いでもない。明らかな『脅し』であった。「日本が火の海になる」のは、まるで我々のせいであるかのように言う。事の起こりは大和の分離独立宣言ではないか。直吉老人に乗せられまいと対談中は極力相手の出方を窺っていた。それが仇になり一方的に言い込まれた。官邸閣議室の最中らは次第に怒り出した。なぜあんな一老人の戯言を一方的に聞かなくてはいけないのか。あれは犯罪者なのだ、国家を転覆し得る大犯罪者なのだ。
「皆さん、まんまと奴に乗せられるところでしたな。まさか本当に『日本が火の海になる』とお考えですか?」
とは最中幹事長。さっき直吉老人に「人相が悪い」と言われた小沢がすぐ応じて
「あり得ない!あの老人は狂人だ。詐欺師で大ペテン師だ。大和一掃作戦が確実に遂行されるよう提案する!」
「我が自民の意は決定しております。自由党は我が党に賛成してくれました。公明党はどうされますか、神主さん?」
「勿論、徴兵制を謳うような連中は放っておけません」
「保守党はどうですかな、扇さん?」
「皆さんに従います。(力なく)」
「民主党はどうですか、鳩屋さん?甘さんは出席しとらんが、党に持ち返り検討する猶予はありませんよ」
「甘がたとえ反対でも、大和は一掃しなければいけません。そして老人の言った政治の大改革をする、勿論法律に則って。我々が辞職するという意味ではありませんよ。それが民主政治というものだ」
「民主党は賛成ということですな。桑さん、それでは共産党はどうですか?追志位さんは老人の弟子となられたようだし、共産党は他政党と行動を別にするよう助言もされた。桑さんは我らと決別し、老人の言うとおり、政治改革を強制執行した上で辞職されますか?」
「と、とんでもない。追志位は執行部の突き上げを食らい、党の中では四面楚歌状態。党策を変更し、革命を捨て、平和政党としてようやく世論から認知されるまで至ったと言うのに、今更革命政党には戻れませんよ」
「小津武さんは、あの大室の大法螺に満更でもない御様子でしたなあ」
「官僚は政府に忠実です。幹事長のお約束……いや御恩も忘れておりません」
幹事長の約束とは例の『内閣法制局元老院』設置の件であった。
「と言うことはここにいる全員が大和一掃作戦に賛成ですな。社民党は欠席しておるが賛成は間違いない。おたきさんの弔い合戦にもなろう。さあ忙しくなる。皆さん各傘下の全国会議員へ早急に『明朝緊急臨時国会を開く』旨をお伝え下さい。そして『自衛隊による大和完全殲滅の軍事行動決議を全国会議員ほぼ満場一致の上で採択』する旨もな」
以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。

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