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新国家「大和」、日本より分離独立を宣言する。

Part7 『一部の良心ネットワーク』、立ちあがる。〜その8(2005.10.24)

「大室先生は北方領土問題をどう思われますか?」
「あれは元々日本の土地じゃ。二島だけお先にとか、四島一括とか議論する前に、とうの昔に返してもらわなあかんかった土地じゃ。あんたら政治家の間抜けで下手糞な取引はお粗末過ぎて笑い話にもならんわ」
「北方領土の持つ可能性はどうでしょう?」
「開発次第では、日本の最大の弱点である、エネルギー問題と食料問題を解決する糸口になるかもしれん」
「そこで先生に御提案があるのです。先生は北方領土を開発してみたいと思いませんか?大和の科学力を使い、北方領土を開発するのです。硫黄島と北方領土では、どちらの方が効率よく開発できるでしょうか?」
「硫黄島は、三島を隔てる海洋がでか過ぎる。近代都市国家を標榜するには面積も小さ過ぎる。人工島建設もそう簡単には進まんじゃろう、やれんことはないが……。はっきり言うて開発の容易さ・効率のよさ・その規模は北方領土の足元にも及ばん」
「その北方領土を先生に、いや大和の皆さんに差し上げようと思うのです。遠慮無く開発して頂きたい。大和の看板を背負い、移住希望者を受け入れて頂きたい。十万人どころか一千万人でも可能です」
「なるほど……、北方領土とはなあ……。これは偉い豪気な話じゃ。それで儂らに小笠原を放棄させ『一応この分離独立問題に決着をつけよう』言うこっちゃ。一千万人も大和が受け入れ可能なら、政府に不満のある日本人はみな大和に移住すればええ。日本政府は大和に独立を諦めさせ、開発効率のよさ・規模の大きさが硫黄島と比べるべくもない新天地を、犯罪者集団である大和に与え、温情あるところを示し政府の威信を回復する――そう言うこっちゃろう。そしてあんたは日本を救うた英雄として、いままでの汚名を一挙に払拭、平成の名宰相として総理大臣に就任する――。違うかえ?」
「さすがに大室先生、すべてお見通しでいらっしゃる。恐れ入りました。ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ(急にバカ笑い)」
「いや、こちらにとっても有り難い話。しかし気前よう北方領土くれる言うが、あれはあんたの土地ではなかろう?」
鈴木スネオ、大室直吉老人がその気になってきたと錯覚、やや横柄になってくる。
「先生、私はねえ。NGOの件さえなけりゃあ、スキャンダルさえなけりゃあ、今頃とっくに総理大臣だったんだ。俺の一声で北方領土なんぞいくらでも差し上げることができるんですぜ。お望みならロシアの三分の一、アフリカの半分だって差し上げましょうか?私の言う通りにして損はありませんぜ。ねえ、先生?」
「でもあんたの言う通りにして、本当に北方領土・ロシア・アフリカが手に入るとは思えんが……。最中さん以下自民のお偉いさんが黙っておらんじゃろう。あんたの一存で決定できる問題かいなあ?」
「俺はなあ、あいつらお偉いさん方の秘密を握っているんだよ。知られたらまずい秘密をなあ」
「そんなもん、蛸花隆の論文や週刊誌で全部ばらされたんと違うんかい?」
「へっ、あんなもの……。あんなのは氷山の一角よ。俺の握っている秘密とはなあ。日本中がひっくり返る、驚天動地の大陰謀のことよ」
「そんな凄い秘密とは?」
「それはなあ……。(いきなり口を塞いで)おっといけねえ。思わず洩らしちまうところだった」
「何じゃい、教えてくれんのかい。儂を信用できん言うこっちゃ。それならこの話はなかったことにしよう」
「先生、口は堅いかい?」
「言わぬと決めたら墓場まで」
「これを餌に俺を脅そうなんて考えちゃいないだろうな?」
「既にあんたと儂は一蓮托生、同穴の狢」
スネオ、直吉老人の言葉に安心したのか、声を潜めてその秘密を語り始めた。
「実はなあ、この秘密はほんの一握りの連中しか知らないことなんだ――」
とうとうスネオ、言っては駄目の例の大陰謀――一部政治家・官僚による『完全中央集権制による日本社会主義帝国』建設計画をぶちまけた。『表向き資本主義国家を装いながら、巧みに国民を操り管理するシステムを、一部政治家および官僚が着々と構築している』事実を日本国反乱分子の総大将大室直吉老人にぶちまけたのである。
「……という話よ。いずれは中国なんぞ及びもしない社会主義帝国ができあがるぜ。どうだい?驚いたかい?」
「……」
「びっくらこいて小便ちびったかい?ワッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ」
スネオはもう九分九厘事は成ったと馬鹿笑い。じいーと考え込んでいる直吉老人。しかし直吉老人から出た言葉は
「いや、やっぱりやめておこう。儂は地道に硫黄島を開発していこう」
顔色が変わるスネオ、すっかり信用した直吉老人のにべもない断りに
「な、なんだって!あれだけの秘密を聞き出しといて、いまさら止めておくだとう!」
「陰謀はよくないぞ、陰謀は……。陰謀あるところに人は集まらん」
「あんたの大和独立は陰謀じゃないって言うつもりか?!」
「おっと、これは一本取られたわい。そうじゃったなあ、確かに陰謀じゃ。ほっ、ほっ、ほっ」
鈴木スネオ態度豹変する。
「おい、おい、おい、おい、おい、爺!人が下手にでりゃあ、いい気になりやがって。おうっ、どういう料簡よ?てめいのために良かれと思って言ってやってるんじゃねえか?事と次第によっちゃあ、勘弁しねえぞ!」
「ほう、これが噂に聞く恫喝か。ヤクザ並と聞いておったが、それではヤクザに対してちと僭越、申し訳ないのう。ただのチンピラではないか」
「なんだとう!俺を誰だと思っていやがる!俺はなあ……」
「なんじゃい、小悪党」
「小悪党だとう!」
「小悪党が気に入らんなら、盗人、盗賊、国賊、非道、醜悪、極悪、害毒、猛毒、下司、下郎、餓鬼、悪鬼、妖怪、ええと、それからそれから……」
「いい加減にしろ!ぶっ殺すぞ、てめえ!てめえみていな爺の一匹や二匹、叩き殺すのは朝飯前よ。なんならここでぶっ殺してやってもいいんだぜ、おう、爺!」
と息巻くのはいいが、いきなり応接室のドアがばたーんと開いて、そこには大室直吉老人のボディーガード、元プロレスラーの前田阿修羅が腕組し仁王立ち、鈴木スネオを険しい形相で睨みつけた。急遽、声のトーンが変わるスネオ――
「で、大室先生、この件はですねえ。白紙に戻すというのは、今一度考え直してもらう訳には、参りませんでしょうか?」
まるで借りてきた猫状態。背筋を伸ばし、両手は膝の上。
「もうええよ、前田。ドアを閉めて外で待っていておくれ」
前田の姿が視界から消え「はー」とため息をつくスネオ。
「鈴木外務大臣、やはりさっきの話は聞かなかったことにしよう。わざわざ小笠原までお出で頂いたのに、交渉決裂とはお気の毒じゃが、悪く思わんでくれ。しかしあんたよく喋るのう。政治家ではのうて、もっと違う仕事を選んでおいても良かったん違うかい。まあ心配せんでも儂の口からさっきの陰謀が洩れることはない。あんた自身の口の軽さを心配しておくべきじゃったなあ。遠路はるばる東京から来てもろうたお礼にひとつ助言しておこう。いま日本に帰るのはお止めなされ。明日から日本は揉めに揉めるじゃろうって。あんたが最も非難されるかもしれんよってなあ。大和問題が解決するまで硫黄島でゆっくりしていっても構わんよ」
鈴木スネオは謹んで辞退した。あんな恐い奴(前田阿修羅のこと)がいるなんて、ゆっくりできる訳ないじゃないか!今日のことは忘れよう。東京に戻ってもそ知らぬふりをしておけばよい。俺と大室が対談したことは、ごく一部のものしか知らない。対談内容は俺と大室だけの極秘だしな。

鈴木が引き上げた大和暫定政府基地応接室――
「おお、あんたらか?相変わらず、どこからともなく現れるのう」
大室直吉老人の傍らには、二人のマスクマンが控えていた。前田や長州ではなかった。プロレスラーほどではないが、一人はがっちりとした体格、もうひとりはスリム型、マスクにはそれぞれ赤い縁取り、青い縁取りが施されている。直吉老人は二人を赤影、青影と呼んだ。
「赤影よ、あの鈴木どう思う?」
「道を間違えましたなあ。老師の仰る通り別な仕事を選べば、大成していたものを……」
そう言うのは赤影。
「すべて勘違いから始まるのよ、人間は。謙虚でさえあればいずれは勘違いに気付く。人生の修正も可能じゃて。そして誠であることじゃな。その二つがあれば少なくとも不幸にはならんわい」
「次の作戦はどうされますか?」
これは青影。
「日本政府の出方次第よ。特にあんたらは忙しゅうなるじゃろう。頑張っておくれよ。今度の作戦は『全日本国民が登場する舞台作り』じゃなあ」


以下明日に続く(土曜日の更新はありません)。

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